「核のごみ」最終処分場文献調査報告書の原案公表に対する原水禁声明


掲載日:2024.02.14

2月13日、原子力発電環境整備機構(NUMO)は、高レベル放射性廃棄物最終処分場選定に向けた文献調査の報告書原案を公表しました。これに対し、原水禁が声明を発出しましたのでお知らせいたします。

 

「核のごみ」最終処分場文献調査報告書の原案公表に対する原水禁声明

 原子力発電環境整備機構(NUMO)は2月13日、北海道の寿都町と神恵内村において、原発の運転によって生じる高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の選定に向けた、文献調査報告書の原案を公表した。2町村でのべ約1500の論文やデータを分析して調べた結果、活断層や活動の恐れのある火山など明らかな不適地は少ないと判断した。概要調査に進む候補地域として、神恵内村は村内の積丹岳から「15キロ以内の範囲を除いた範囲」を、寿都町は「町全域およびその沿岸海底下全域」を示した。NUMOは同日、調査結果を経済産業省の審議会に示し、今後有識者の意見をふまえて正式な報告書をとりまとめるとしている。

 2020年8月、北海道寿都町の片岡町長が文献調査に応募することを明らかにした。続けて10月には同じく北海道の神恵内村も文献調査の受入れを決め、11月にはそろって調査が始まった。

 核のごみの処分手続きを定めた最終処分法は、地下への最終処分((地層処分)ができることを前提として2000年に成立したものの、その場所は決まっていない。この文献調査に応募することで自治体には、最大で年間10億円、総額20億円の交付金が支払われた。寿都町は3000人余り、神恵内村は800人余りと、人口減少にあえぐ自治体を、まるで交付金で釣るようなやり方に、地元住民をはじめ、近隣や全国各地の多くの市民から反対の声が上がった。地元では、核のごみの受け入れ賛成か反対かによって住民の分断を招き、家族内でさえ対立を引き起こすきっかけになったという報告がされている。

 2023年10月には地球科学の専門家有志が、「日本に地層処分をする適地はない」とする声明を公表した。声明では、地殻変動の激しい日本では廃棄物を10万年にわたって地下に閉じ込められる場所を選ぶのは不可能と指摘したうえで、最終処分の抜本的な見直しを求めた。「日本列島は複数のプレートが収束する火山・地震の活発な変動帯」とし、先行する北欧と同じように、封じ込めの技術で安全性が保証されるとみなすのは「論外」と批判した。

 専門家は地上での暫定保管も含め、中立的な第三者機関を設けて再検討するよう求めた。1月1日に発生した能登半島地震において、志賀原発で想定を超える事態が発生し、電源が失われ、水漏れを起こし、モニタリングポストが測定不能となる等、「想定外」の出来事が相次いで起こっている。地層処分は、岩盤が不均質で亀裂も多いうえ、活断層が未確認の場所でも地震が発生する可能性がある日本には適していない。地下水の流れが変化し、亀裂や断層を伝って放射性物質が漏れ出すことも否定できない。

 2町村がある北海道では「特定放射性廃棄物に関する条例(核抜き条例)」が2000年に成立している。寿都町、神恵内村に隣接する積丹町や島牧村などでも、町内や村内に核のごみの持ち込みを拒否する「核抜き条例」がそれぞれ成立している。そもそも文献調査は最終処分場を選定するための調査であり、核抜き条例を持つ北海道で調査すること自体が誤りである。全国的には高知県東洋町や長崎県対馬市のように、核のごみの受入れについて、文献調査に応募したり応募を検討したりした地域もあるが、実際は地元住民の反対等によって実現していない。

 次の段階である概要調査は4年程度かけて地層を掘り出すボーリングを実施するなどして、直接地質や地下水などの状況を調べるとされている。地元住民とともに、全国各地から核のごみの最終処分場の「適地」など存在しないことを訴えていくことがより一層必要になる。原水禁は北海道平和運動フォーラムとともに、寿都町、神恵内村ともに概要調査へ進ませないとりくみを強化していく。

 原水禁は、2023年5月に北海道札幌市で「どうする?原発のごみ全国交流集会」を北海道平和運動フォーラム・原子力資料情報室とともに開催し、最終処分法ではなく、新たな法体系を整備することを提言としてまとめた。具体的には、直ちに新たな核のごみを生み出す原発を停止し、すでに生み出してしまった核のごみについては地層処分ではなく、監視が可能な地上ないし半地下で長期保管をすること、その場所については「公論形成委員会」等を設置し、民主的な議論を進めること等を提言している。

 「トイレなきマンション」と揶揄される原発から出る核のごみについて、そのエネルギーを享受した現世代の責任において、地層処分という誤った方法をもって最終処分とすることを認めるわけにはいかない。目に見えない放射性物質におびえる生活を、将来世代に強いることなど決してできない。

 そのために原水禁は、核のごみ最終処分場の「適地」など日本国内には存在しないことを理解し、現実を受け入れた処分の方法について議論を展開していく。そして、人口減少に苦しむ自治体が、交付金に頼ってしまう地方自治制度の見直しを含めて、私たちの望む生活がどのようなものであるか、広く民主的な議論を展開していくことを改めて決意する。

2024年2月13日
原水爆禁止日本国民会議(原水禁)共同議長 川野浩一
金子哲夫
藤本泰成

 

【参考】
寿都町の文献調査報告書(案)
神恵内村の文献調査報告書(案)