安全保障関連法成立から6年
掲載日:2021.09.19
集団的自衛権の行使などを認める「安全保障関連法」が成立された9月19日から6年が経過しました。北海道平和運動フォーラムは「戦争をさせない北海道委員会」を中心に、19日に総がかり行動を展開してきましたが、コロナ禍で集会の中止を断念せざるを得ない状況が続いています。安保法成立から6年という節目を迎え、安保闘争から設立した「戦争をさせない北海道委員会」の経緯や成立されてきた法律などを振り返ります。
◆第二次安倍内閣発足と特定秘密保護法成立
2012年12月、衆議院議員総選挙で自民党安倍政権が誕生しました。安倍政権は2013年10月25日、国民の「知る権利」や「報道の自由」などを侵害する「特定秘密保護法案」を閣議決定しました。その内容は、①外交や防衛など4つの分野に関する機密のうち特に秘匿の必要性がある情報を「特定秘密」に指定する、②特定秘密を漏えいした者には最高で懲役10年を科す、③行政機関と契約を結び「特定秘密」に接する民間業者も同様に罰するとするものでした。この法律は「特定秘密」を指定する閣僚など行政機関の長が、恣意的に秘密の範囲を拡大し、行政にとって都合の悪い情報を隠蔽する可能性がある問題が指摘されていました。
北海道平和運動フォーラムは、10月28日に「『特定秘密保護法案』を考える緊急シンポジウム」の開催をはじめ、複数回の緊急街頭行動や国会前座り込み行動などを展開、12月3日には「『特定秘密保護法案』反対!許すな改憲!12.8北海道集会」を開催してきました。
12月6日、参議院で成立された「特定秘密保護法」は、国民の「知る権利」や「報道の自由」などを侵害する危険性は何ら変わらず、修正協議では①秘密の指定期間が「原則30年」から「原則60年」、さらに特に秘匿性の高い情報として限定列挙する7項目は例外扱いとなり、永久に秘密になる可能性があるなど大きく後退、②「秘密」をチェックする機関は、いずれも政府内に設置する「身内」の官僚たちで固めた組織であり、チェック機関とはなり得ないなど、多くの問題を抱えたまま成立されました。「特定秘密保護法」には、文化人や芸術家、学者らだけではなく、あらゆる層の団体や市民が廃案を求め、全国各地でデモや街頭行動などが行われ、海外からも反対の声が上がりました。また、北海道新聞の全道世論調査では65%が法案に反対し慎重審議を求めていました。
「特定秘密保護法」は2014年12月10日に施行され、施行直後は382件が「特定秘密」として指定されましたが、2021年6月末現在では640件となっています。
◆集団的自衛権行使容認の閣議決定と戦争をさせない北海道委員会の設立
安倍政権は2014年4月に武器輸出を解禁する「防衛装備移転三原則」を閣議決定、7月1日には、「憲法9条の制約から、保有するが行使できない」とされてきた憲法解釈を変更し、「集団的自衛権」の行使容認を閣議決定しました。
平和フォーラムは、こうした安倍政権の憲法破壊攻撃と対峙し「集団的自衛権」行使容認を阻止するため、ルポライターの鎌田慧さんや作家の大江健三郎さんらが発起人となって「戦争をさせない1000人委員会」を発足し、「総がかり行動」「総がかり国会包囲行動」「戦争をさせない全国署名」などにとりくんできました。北海道では、脚本家の倉本聰さんらを「呼びかけ人」として「戦争をさせない北海道委員会」を設立し、「戦争をさせない北海道集会」「シンポジウム」「憲法問題連続講座」「街頭集会・デモ行進」などを展開してきました。
2015年4月27日、日米両政府は自衛隊と米軍との役割と協力の在り方を定めた「日米防衛協力指針(ガイドライン)」を改定しました。日本が「集団的自衛権」を行使する場合の協力内容を盛り込むとともに、自衛隊による米軍の後方支援を日本周辺から地球規模に拡大するなど、従来の協力の枠組みを大きく超える内容でした。
5月15日には、「集団的自衛権」を実際に行使するための「武力攻撃事態法」や「周辺事態法」など既存の法律10本を一括して改正する「平和安全法制整備法案」と、他国軍への後方支援を随時可能にする新たな恒久法「国際平和支援法案」、いわゆる「安全保障関連法案」が国会に提出されました。この法案は「専守防衛」という戦争放棄と交戦権の否認などを謳った憲法9条や日本の安全保障政策を根本から覆すものでした。自衛隊を地球規模で「いつでも」「どこでも」派遣し、米軍のみならず「だれとでも」武力行使できる「戦争法案」そのものであり、戦争をさせない北海道委員会では数々の街頭抗議行動を展開してきました。
当時、安倍首相は「現行法制で対応できない」として示した「邦人輸送中の米輸送艦の防護」や政府が示した「自衛隊活動の15事例」などは、どれも軍事的・現実的に蓋然性に欠ける事例ばかりでした。さらに、政府は「限定容認」と主張していましたが、「国民の権利が根底から覆される『明白な危険』」に何が当たるのかは曖昧であり、いくらでも拡大解釈が可能で自衛隊の海外での武力行使に歯止めが利かなくなる危険性を孕んでいます。
安全保障関連法の成立から1年が経過した2016年、9月19日を中心に、札幌市をはじめ帯広・網走・北見・函館・旭川・釧路など全道各地で「一斉行動」が展開されました。
◆共謀罪(組織犯罪処罰法改正案)の成立
安倍政権は2017年3月21日、「テロ対策」を口実に、「テロ等準備罪」を創設する「組織犯罪処罰法改正案」を国会に提出しました。これは、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」と本質的には何ら変わるものではなく、人権侵害・監視社会につながりかねません。
改正案は、①捜査対象を「団体」から「組織的犯罪集団」に限定する、②2人以上で犯罪を計画し、少なくとも1人が犯行現場の下見など「実行準備行為」をした段階で「テロ等準備罪」で処罰できる、③対象犯罪を277に絞る、などというものです。これらは、①「もともとは正当な活動をしていた団体でも、性質が犯罪目的に一変すれば適用対象となる」としていますが、何を根拠に「一変した」と判断するかは曖昧であり、捜査機関の裁量で拡大解釈され、「一般の市民・団体」もその対象となりかねないこと、②277の罪のうち、組織的殺人やハイジャックなどの「テロの実行」に分類されるのは約4割の111にとどまっており、「テロ」と関係ないものも多く含まれていること、③「国際組織犯罪防止条約」を締結するためには「共謀罪」の創設が不可欠として、「懲役・禁錮4年以上の676の全ての罪を対象とすることが必要で、条約上絞り込みはできない」との閣議決定と矛盾していること、などの問題がありました。
「共謀罪」の大幅拡大は、憲法が保障する思想・良心の自由(第19条)や集会・結社・表現の自由(第21条)を著しく脅かすものです。組織的犯罪集団の定義も曖昧であり、平和や人権問題にとりくむ労働組合や市民団体は、組織的犯罪集団として認定され、組織的威力業務妨害容疑のみならず、その共謀容疑で弾圧される可能性を秘めています。通信傍受や会話傍受もあたりまえとされ、プライバシーが侵害される恐れがあります。自首に対する刑の減免は「密告」を奨励し、日本社会をこれまで以上の監視社会へと変貌させようとしています。さらに、市民団体や労働組合の正当な活動を萎縮させる効果を生じさせることがねらいとも言えます。
北海道平和運動フォーラムは、5月19日の衆議院法務委員会採決日を頂点とする四日間連続行動、衆院を通過した5月23日には緊急の「総がかり行動」を展開し、国会審議の山場には全道各地で抗議行動を展開するなど、「共謀罪」成立阻止に向けた運動を展開してきました。
「共謀罪」は、6月15日、参議院本会議において「数の力」で強行的に採決となりました。この採決は、法案を付託した委員会採決を省略する「中間報告」を用いて成立させたという、国会の基本的な手続きを省いた「異例」の手続きと指摘されています。
◆コロナ禍での行動と改憲手続法と重要土地調査規制法案の成立
戦争をさせない北海道委員会では、安全保障関連法や共謀罪の廃止を求めるとともに、憲法改悪阻止に向けて毎月19日の行動を展開してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行とともに集会を中止せざるを得ない状況が続き、ホームページ上でのメッセージ発信や動画配信に代えてきました。
そうした中、2021年6月11日、憲法改正の手続きを定めた改正国民投票法(改憲手続法)が成立しました。「最低投票率」あるいは「最低得票率」の問題をはじめ、CM・ネット規制や新型コロナウイルス等による自宅療養者の投票権の問題は残されたままとなっています。立憲民主党・無所属は修正案を提出し、法案は修正したうえで、可決されることとなりました。修正内容は、CM・ネット規制や政党への外資規制の問題、また、運動資金の透明化など、この法案のもつ明らかな欠陥を「施行から3年を目途」に必要な改正を行う、としたものでした。
また、6月16日には「重要土地調査規制法案 (重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案)」が成立しました。同法は日本国憲法第29条で保障された財産権を侵害しかねない内容となっているばかりでなく、個人情報の過度な調査によって、プライバシーの権利(憲法第13条)など基本的人権そのものを侵害しかねないものであり、違憲の疑いが極めて高い法律となっています。
北海道平和運動フォーラムは、新型コロナウイルス感染防止のため、「総がかり行動」をはじめとする集会を開催することが困難な中、車による街宣活動、動画配信やSNSによる発信を展開してきました。
この間、自民党安倍政権を中心として、反対勢力を無力化する治安体制(共謀罪)、すべての資源を動員できる法制度(自衛隊法、事態対処法、国民保護法、特定公共施設利用法)、不都合な情報の隠ぺい(特定秘密保護法)、異論封じの報道統制(放送法)、市民が相互に監視し、国家が直接市民を監視するシステム(共謀罪、重要土地調査規制法、通信傍受法)が構築されてきました。さらに、憲法9条を骨抜きにするような集団的自衛権行使容認や安全保障関連法の成立など、憲法改正への布石を次々と打ってきています。北海道平和運動フォーラムは、再び戦争への道に突きすすむかのような勢力と対峙し、集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法をはじめとする数々の悪法の廃止と憲法改悪阻止にむけて、平和と民主主義を希求する市民団体とさまざまな行動を展開していきます。