7.19 総がかり行動に代えてー第204回通常国会から引き継ぐ課題
掲載日:2021.07.19
新型コロナウイルスが収束しない中、対面による集会等の開催を断念せざるを得ません。よって、7 .19 総がかり行動に代えて、第 204 回通常国会から引き継ぐ課題について UP します。
第204回通常国会でどのような法案が成立し、どのような問題が残されているのか。改正改憲手続法や重要土地調査規制法を中心に掲載しています。
北海道平和運動フォーラムは、これらの法律が規制するのは、土地ではなく人であり、合法的な市民監視が始まると危惧しています。政府は、来年度の初めにも法を施行しようと準備を進める中、無効化・廃止させていく運動に取り組んでいきますので、ぜひご一読ください。
■コロナ対策講じることなく閉会
2021年1月18日に開会した第204回通常国会は、150日の会期を終えて6月16日に閉会しました。今国会では、収束が見えないコロナ対策、相次ぐ「政治とカネ」をめぐる問題、オリンピック・パラリンピックへの対応が大きな焦点となりましたが、国民の不安や疑問にまともに答えようとせず、多くの課題を積み残したまま閉会となりました。
野党はコロナ対策が急がれる中で国会を閉じるべきではないとして3カ月の会期延長を要求し、与党が応じなかったために内閣不信任案の提出に踏み切りましたが、与党はそれを否決したうえで重要土地調査規制法案を会期中に成立させて閉会しました。
このように新型コロナウイルス・パンデミックに直面している危機的状況下にあるにも関わらず、菅政権は変異株の流入を防ぐ水際対策、進まないPCR検査の拡充、ワクチンの確保と接種体制の不備、なかなか拡大しない病床数など、具体的かつ有効な対策を講じることなく、国会は閉幕されたのです。
これまで新型コロナウイルス感染症の影響を受けて仕事を失った人は、製造業、小売業、飲食業、宿泊業を中心に10万人を超えているといわれています。しかし、実態は10万人にとどまらないと考えられ、この1年で貧困と格差が急激に拡大しています。これはもはや人災であり、菅政権下での政治が機能していないことは明らかです。
さらに、「政治とカネ」をめぐる不祥事、菅総理の長男が関連した総務省に対する違法接待、日本学術会議会員の任命拒否問題など、カネと権力の暴走は後を絶ちません。国民にはガマンを強要しておきながら、「上級国民」が夜の会食をしていたことも大きな問題になりました。それらを打ち消す形でオリンピック・パラリンピックを強行しようとする背景には、自らの政権の浮揚のためでしかないと言わざるを得ません。国会審議中も成立ありきであり、国民のために、また、立法府としての責任を果たそうとする姿勢は見られませんでした。「改正改憲手続法」や「重要土地調査規制法」の成立を強行したのも保守層を取り込むための選挙対策であるともいわれています。これが安倍政権の理念を継承した菅政権の姿です。
■欠陥ばかりの改正改憲手続法
憲法改正の手続きを定めた国民投票法(改憲手続法)改正案が今国会で成立しました。
この間、改憲勢力は国民が受け入れやすい内容を訴え、国民の警戒心を薄めようとしてきました。「国民投票法」という名称自体も「日本国憲法の改正手続に関する法律」に「国民投票」という文言がないにも関わらず、あたかも「国民が決める」かのような名称にしたものであり、憲法改正を通しやすくした憲法改悪への道でしかありません。
これまで立憲野党は8国会にわたって、改憲発議が可能な衆議院の3分の2を超える自公政権のもとで法案審議を継続させてきました。しかし、5月6日の衆院憲法審査会において、立憲民主党の修正案をすべて了承し、法案を修正したうえで、可決されることとなりました。修正の内容は、CM・ネット規制や政党への外資規制の問題、また、運動資金の透明化など、この法案のもつ明らかな欠陥を「施行から3年を目途」に必要な改正を行う、としたものでした。
この改正案は、そもそも「投票しやすい環境を整える」ことが目的でした。しかし、「期日前投票の弾力的運用」や「繰延投票の告示期間の短縮」は、かえって「投票環境」を悪化しかねないものです。また、「最低投票率」あるいは「最低得票率」の問題をはじめ、CM・ネット規制や新型コロナウイルス等による自宅療養者の投票権の問題も残されたままとなっています。
参議院の憲法審査会では、これらのことが改めて議論されました。6月2日に行われた参院憲法審査会では、与党推薦の参考人までもが議論が不足していることを指摘しましたが、審議不十分のまま6月11日の参院本会議で採決し、立法府としての責任を全く果たすことなく成立したのです。
今後、菅自公政権は、「自衛隊明記」「緊急事態条項の導入」「教育の充実」「合区解消」などの改憲4項目の議論に入っていくことが懸念されます。それは当然ながら憲法発議を視野に入れてのことです。しかし、「附則」に明記されているように「欠陥法案」である以上、この法案が成立したからといって、自民党などが主張する「憲法改正の是非を問う国民投票の実施に向けた環境が整った」わけではありません。また、「自衛隊明記」「緊急事態条項」は、日本国憲法の「平和主義」「民主主義」「基本的人権の尊重」という基本原理を踏みにじる内容となっていますし、「教育の充実」を実現するためには法改正や予算措置で可能であり、憲法を改正する必要はありません。「合区解消」は「投票価値の平等」を空洞化させ、自民党に有利な選挙区を憲法改正によって作り上げることが可能となるものであり、いずれの改憲項目も「有害無益」と言わざるを得ません。さらに、CM・ネット規制、政党への外資規制、運動資金の透明化など、「カネで買われた憲法改正」にならないよう、国民投票のあり方についても議論を継続するべきです。憲法改悪の地ならしとなる法案が通過した今、これまで以上に憲法改正論議を注視していかねばなりません。
現在、コロナ禍の収束をはじめ、格差・貧困の問題解決が急務となっている中、憲法改正は焦眉の課題ではありません。憲法に「緊急事態条項」の規定がないために、政府は適切な対応を打てないとする論がありますが、これは詭弁であり、すでにある法律を使い切れていない政府の責任転嫁です。そして、緊急事態条項は、国家権力から国民の基本的人権を擁護するための憲法秩序を一時停止させる権限を国家権力自身に与えるものであり、国家権力を制限して国民の権利・自由を守るという立憲主義を骨抜きにするものです。このような詭弁を打ち消していくためにも、改憲勢力が3分の2以上を占める衆議院の状況を、来る総選挙で変えていくことが最大の課題であるといえます。
■条文があいまいな重要土地調査規制法
重要土地調査規制法案は、基地や原発などの周辺1kmについて、国が「注視区域」や「特別注視区域」に指定し、利用を規制できるとした法律であり、「特別注視区域」では土地や建物の売買の際に事前に氏名や国籍の届け出などが義務づけられます。また、国は区域を指定した上で土地・建物の所有者を対象に、氏名や国籍、利用状況などの個人情報を調査できるとされています。
本法案は、3月26日に閣議決定されているにもかかわらず、ひと月以上も経った5月11日になってようやく衆議院で審議入りし、わずか12時間の議論しか行われないまま、5月28日、衆議院内閣委員会で採決を強行し、6月1日には衆院本会議で可決となりました。
政府は、航空自衛隊千歳基地や海上自衛隊対馬防衛隊周辺の外国資本による土地取得が相次いだことを土地購入の事例を挙げ、安全保障の観点や自治体から意見書があがっていると説明してきましたが、航空自衛隊千歳基地の事例は1kmの範囲内に含まれていないほか、地元である千歳市や対馬市の市議会からも安全保障上のリスクであるといった趣旨の意見書は採択されていないことが判明しました。
この法案の最大の問題点は、法律に書かれていることがあまりに抽象的であり、具体的内容の多くが、政令や告示で個別指定されることとなっている点にあります。同法では、基地や原発などの施設機能を「阻害する行為」を「機能阻害行為」として規制対象とし、命令違反には懲役もしくは罰金刑の対象とされています。しかし、「機能阻害行為」とはなにか、ということについては、まったく明確な定義がなされていません。このため、時の権力の解釈次第で基地に対する反対運動や監視活動などが「機能阻害行為」に含まれる危険性があり、市民運動の弾圧に利用される恐れを孕んでいます。
また、内閣総理大臣が、調査のために必要がある場合、対象区域の利用者らの情報提供を求めることができるとされていますが、これも、提供の対象となる情報や調査項目が政令や告示で個別指定されることとなっており、調査内容が歯止めなく拡大する可能性があります。このように国家権力による違法な情報収集に、法的裏付けを与えてしまう危険性のある法律が成立したのです。
本法案は日本国憲法第29条で保障された財産権を侵害しかねない内容となっているばかりでなく、個人情報の過度な調査によって、プライバシーの権利(憲法第13条)など基本的人権そのものを侵害しかねないものであり、違憲の疑いが極めて高い法律となっています。参議院では「重要土地調査規制法案」の審議について、衆議院では行われなかった参考人招致が実現し、あわせて4回の審議が行われました。しかし、「機能阻害行為」など、法案で具体的に何が規制対象とされるのか全く分からないまま、与党は審議を打ち切ろうとしました。立憲野党は内閣委員長や議事運営委員長の解任決議などで抗議しましたが、最終的には16日の3時近くに参院本会議で可決されました。
こうして市民監視が合法化され、私権制限が現実のものとなる恐れがあります。今後、この法律に基づいて出される政令や告示を注視していかなければなりませんし、ほぼ法律の体をなしていないこの法律そのものを廃止させる運動が必要です。